どうもこんにちは! 阿見町議会議員の 筧田 聡 です。
那珂川から霞ヶ浦へ水を引く「霞ヶ浦導水事業」。試験通水のお知らせに「桜川の水位が上昇する場合があります」とあり、こう感じた方がいるのではないでしょうか。
湖に水を足したら、桜川が氾濫しやすくなるのではないか。
国土交通省の資料で確かめました。結論から言うと、公開されている資料からは、この導水で土浦の桜川の洪水リスクが高まるとは確認できませんでした。
ただし「だから桜川は安全」という話でもありません。順にお伝えします。
この記事は「導水事業はよい事業だ」と主張するものではありません。治水への影響と、事業そのものの評価は別の話だからです。
「桜川」は県内に二つある
お知らせの「桜川」は、水戸市の桜川(千波湖につながる川)です。那珂川から最大で毎秒3トンを流す試験が行われていて、注意書きはその話でした。

霞ヶ浦に注ぐ土浦市の桜川とは、別の川です。
同じ名前の川が二つある。心配の入り口は、たぶんここです。
水は、どちらへも流れる
まず押さえておきたいのは、この事業が一方通行ではないということです。トンネルの中を、水は両方向に行き来します。
| 区間 | 向き | 最大の量 |
|---|---|---|
| 那珂川 → 霞ヶ浦 | 送る | 毎秒15トン |
| 霞ヶ浦 → 那珂川 | 送り返す | 毎秒11トン |
| 那珂川 → 水戸の桜川 | 送るだけ | 毎秒3トン |
| 利根川 ⇔ 霞ヶ浦 | 双方向 | 毎秒25トン |

ポンプのある施設は「機場」と呼ばれ、全部で4か所。那珂川と霞ヶ浦の間では、那珂機場(水戸市)と高浜機場(石岡市)が出入り口になり、水を送る向きによって働く施設が変わります。
霞ヶ浦側の出口は、いまは高浜。将来は土浦にも
那珂川からの水が霞ヶ浦へ出るのは、石岡市の高浜。湖の北の端です。土浦の桜川の河口とは、湖を挟んで反対側にあたります。
ただしこれは当面の話。全体計画では、導水路はさらに南の土浦市湖北町まで延び、「土浦放流口」に至ることになっています。名前のとおり、こちらは水を湖へ出すための口で、ポンプ施設は置かれません。
この区間は、まだ着手されていません。ただ将来は土浦側にも出口ができる。だから「遠いから安心」とは言えません。
入る量はどれくらいか
那珂川からの導水は、最大で毎秒15トン。数字だけ見ると多く感じます。
ここで面積の話になるのですが、少しややこしいところがあります。
土浦や阿見で「霞ヶ浦」といえば、目の前に広がるあの水面のこと。北浦は別の湖、という感覚だと思います。この感覚は、実は河川の名前とも一致しています。 国の資料でも、目の前のあの水面の河川名は「霞ヶ浦(西浦)」です。
一方で、法律上の「霞ヶ浦」は、西浦・北浦・常陸利根川・鰐川・横利根川という5つの河川をまとめた総称。よく聞く「約220平方キロメートル・日本で2番目に広い湖」は、この総称のほうの数字です。
今回の計算に使うのは、目の前の水面=西浦の約170平方キロメートル。導水の水が出るのも、桜川が注ぐのも西浦だからです。なお、西浦だけでも琵琶湖に次いで全国2番目の広さになります。
いちばん多い場合で計算すると、こうなります。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 導水の最大量 | 毎秒15トン(1日で約130万トン) |
| 西浦の面積 | 約170平方キロメートル |
| 1日あたりの水位上昇 | 約7.6ミリ |
※最大量を丸一日入れ続け、雨も流入もなく、湖から一滴も抜けないという、あり得ない条件での計算です。
ただし、これは安全の証明ではありません。湖の水位は、雨・流入する川・下流への排水・風で決まります。ここで分かるのは導水量の規模感だけです。
大雨のときはどうなるのか
国土交通省の資料では、那珂川から水を取るのは「那珂川が必要な流量以上の時で、かつ霞ヶ浦への導水が必要な場合」とされています。実際の運用は、流量・水質・上流ダムの状況・降雨の予測を総合的に判断して行う、と説明されています。
確認できたのは、ここまでです。
「霞ヶ浦がこの水位になったら止める」といった具体的な操作基準は、公開資料では見つかりませんでした。ですから「大雨のときは絶対に入れないから大丈夫」とまでは言えません。ここは霞ヶ浦導水工事事務所に直接うかがい、あらためてご報告します。
まだ本格的な通水は始まっていない
- 事業着手:昭和59年
- トンネル貫通:2025年12月末
- 一部通水の開始予定:2026年度中(2026年8月時点)
40年以上をかけて、ようやく那珂川と霞ヶ浦が地下で結ばれたところです。今は「流した結果どうなったか」ではなく、「これから始まる運用をどう見るか」という段階になります。
ただし「桜川は安全」という話ではない
ここは切り分けが必要です。
霞ヶ浦の水位が上がると、流れ込む川の水が出にくくなる。 国土交通省の「霞ヶ浦河川整備計画」にも、洪水時に霞ヶ浦への排水が困難となることがある、と明記されています。いわゆる 背水(バックウォーター) です。同じ計画には、昭和13年と昭和16年の洪水が湖岸周辺に大きな被害を与えたことも記されています。
土浦の市街地は、もともと低湿地に湖岸の砂州が重なる地形で、水が溜まりやすい。茨城県は桜川について、48時間の総雨量746ミリという想定で浸水区域を公表しています。
つまり——導水が原因だとは確認できない。けれども、桜川の水害リスクがゼロではない。 この二つは両立します。一緒にしてはいけないところです。
賛否があること自体は、知っておいていい
この事業には長い議論の歴史があります。漁業への影響をめぐる訴訟があり、平成30年に和解が成立しました。事業費は当初の1,600億円から2,625億円に増えています。
賛成・反対それぞれの立場があり、私はここで是非を述べません。
ただ、治水への影響・生態系への影響・水質改善の効果・事業費の妥当性は、それぞれ別の話です。ひとまとめにするより、一つずつ確かめたほうが判断しやすいと思います。
不安は、分けて見る
不安を確かめるときは、名前・場所・量・運用を分けて見る。どちらの桜川か。水はどこから入るのか。どれだけ入るのか。大雨のときはどう操作するのか。
分けていくと、誤解だった部分と、本当に確認すべき部分が見えてきます。そして、解けたあとに残るものこそが、向き合うべきリスクです。
湖のほとりに住む私たちにとって、それは導水よりも、大雨のときの内水対策と湖岸の備えでしょう。
まずはお手元のハザードマップを開いて、ご自宅だけでなく、普段使う道路や避難先まで見てみてください。「何となく怖い」を「どこが、どのくらい危ないのか」に変える。それが今日できる一歩です。
私も阿見町の対策状況をあらためて確認して、また報告します。
おまけ|「霞ヶ浦」と「霞ケ浦」、どっちが正しい?
看板や資料で、小さい「ヶ」と大きい「ケ」の両方を見かけます。書き間違いではありません。
- 地名としての正式表記は「霞ケ浦」(大きいケ)。国土地理院の『標準地名集(自然地名)』がこちらを採っています
- ただし国は「霞ヶ浦」(小さいヶ)、茨城県は「霞ケ浦」(大きいケ)を使う傾向があります
- 国土交通省の事務所名は「霞ヶ浦河川事務所」「霞ヶ浦導水工事事務所」。茨城県の資料は「霞ケ浦」
つまり、どちらも間違いではなく、書き手によって違う。この記事では国の資料を引いているので「霞ヶ浦」で統一しました。
ちなみに「かすみがうら市」はひらがな。市名を決めるとき、この表記問題を避けられたのかもしれません。
ご覧いただきありがとうございました。 阿見町の 筧田 がお送りしました!
出典
- 霞ヶ浦導水事業の概要(国土交通省関東地方整備局 霞ヶ浦導水工事事務所)
- 霞ヶ浦導水を構成する施設(那珂導水路=水戸市渡里地先〜土浦市湖北町地先)
- 那珂導水路(各施設の役割と区間)
- 整備進捗状況・事業の経緯(事業費・訴訟・和解の年表)
- 工事進捗状況(石岡トンネル全区間貫通・令和7年12月25日)
- 霞ヶ浦導水事業についての疑問・質問(FAQ・PDF)
- 霞ヶ浦導水事業の検証に係る検討報告書(位置・未着手区間)
- 利根川水系 霞ヶ浦河川整備計画(洪水時の排水困難・昭和13年/16年洪水)
- 霞ヶ浦の水理・水質特性(西浦の面積/国土交通省)
- 土浦市洪水ハザードマップ(桜川の想定雨量)
- 石岡トンネル第3・第5工区到達/2026年度に一部通水(日刊建設工業新聞 2026年2月5日)
- 阿見町 洪水ハザードマップ
- 霞ヶ浦(表記・広義と狭義・水域別面積) ※表記の一次根拠は国土地理院『標準地名集(自然地名)』


















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