どうもこんにちは! 阿見町議会議員で、起業茶屋®主催の 筧田 聡 です。
「焼肉きんぐ」「丸源ラーメン」など22ブランドを展開する物語コーポレーションが、低用量ピルの服用費を全額補助する制度の対象を、今年7月1日からパート・アルバイトへ広げました。
2023年9月に女性社員約300名で始まった制度です。それが対象約500名まで育ち、今回さらに約2,500名の女性パートナー(同社はパート・アルバイトをこう呼びます)へ広がりました。対象は社会保険に加入している方、またはリーダー以上の役職者です。診察費から薬代、配送費まで会社が全額を負担します。スマホやタブレットでオンライン診療を受け、薬が自宅に届く仕組みです。
正直なところ、最初は「そこまでやるのか」と思いました。ただ、経緯と数字をたどっていくと、驚きは別の感情に変わります。思いやりだけでなく、経営合理性まで織り込んだ設計に見えてきたのです。
起点は経営陣ではなく、一人の店長
この制度、トップダウンで始まったものではありません。
きっかけは、PMS(月経前症候群)で生理前後に体調を崩していた一人の女性店長でした。店長になりたての頃はシフトをやりくりして乗り切っていたものの、婦人科を受診して低用量ピルを試したところ、体調だけでなく気持ちの浮き沈みまで改善した。それなら女性従業員全体に費用補助をしてはどうか、と提案したそうです(東京都のサイトに掲載された同社人事部門へのインタビューより)。
私が注目したのは、同社に現場の声を拾い上げる道筋が用意されていたことです。2023年から、全国の女性店長・副店長と本社マネジャーが集まる「女性店長コンベンション」を年1回開催。2025年は3日間で約150名が参加し、キャリアの不安や現場の課題を話し合ったといいます。加えて事業部ごとの女性活躍推進会議があり、そこで出た意見は多様性推進を担うD&I本部へ集約され、検討を経て経営会議に上がる。
現場の困りごとが制度に変わるかどうかは、思いつきの量では決まりません。提案が途中で止まる会社と、経営判断まで届く会社。差は、この道筋があるかどうかです。
焼肉屋のホールは、想像よりずっと動く
実は私自身、大学生時代に、焼肉チェーンの牛角で3年半働いていました。途中は店長代理をしておりました。
当時はタブレット注文などなく、ホールもキッチンも人が動いて回す店でした。呼び出しのベルは鳴り続け、提供と片付けは途切れず、炭を入れ替え、網を交換し、洗う。そのうえで当時の牛角は「感動創造」を掲げ、決められた手順どおりに回すだけでなく、お客様との会話を大切にするよう強く指導されていました。接客の大会がパシフィコ横浜で開かれるほどです。
だから、想像ではなく実感として分かります。あの現場に、手を抜ける場所はありません。動きを止めれば卓が待つ。声が沈めば、店の空気が変わる。体調の波を抱えたまま同じ質を出し続けるのが、どれほどのことか。
そしてもう一つ。少なくとも私がいた店舗では、働く人の6割以上が女性でした。学生から40代まで、年齢の幅も広い。店を日々回していたのは、まさにその層です。今回の制度が正社員だけで止まらず、パート・アルバイトまで広がった意味は、あの構成比を思えばよく分かります。
ただ、これも私が在籍していた当時の実感としてですが、決して体調不良を言い出しやすい現場ではありませんでした。ハツラツとした雰囲気が売りの店です。元気であること自体が、提供している価値の一部になっている。だとすれば、不調を表に出さないことまでが、暗に仕事へ含まれていたことになります。
こうした取り組みが外食企業から出てきたのは、偶然ではないのかもしれません。元気を届けることを商品にしている業態だからこそ、無理が積み上がりやすい。その積み上がりを間近で見てきた業界が、先に手を打った。そういう順番なのだと思います。
「平等」ではなく「公平」で通した
「女性だけに補助は不平等では」という論点は、当然出ました。同社が経営層への説明に使ったのは、有名な「踏み台」のたとえだったそうです。
塀の向こうを全員で見るとき、同じ高さの踏み台を配るのが平等。身長に合わせて高さを変え、最終的に全員の目線をそろえるのが公平。費用補助が女性だけになるのは、たしかに平等ではない。けれど、仕事をするうえで生理の不調という影響が女性にだけ生じるのなら、それを軽くする支援は公平のための施策にあたる。まして店舗は立ち仕事です。この説明で、経営陣の総意として理解を得たといいます。
説得の技術としても学べます。「困っている人がいるから」ではなく、「同じ土俵に立ってもらうために」と言い換えた。前者は情に訴え、後者は経営の言葉になる。どちらの言語で話すかは、制度の通りやすさを大きく左右します。
数字で見ると、経営投資として考える余地がある
アルバイト採用では、求人広告費などを採用人数で割った「採用単価」がまとまった額になります。マイナビの調査(2022年実績)では、アルバイト1名あたりの平均採用単価は全体で7.0万円。正社員100人未満の企業でも5.7万円でした。そこに、戦力になるまで教える店長や先輩の時間が乗ります。
一方、低用量ピルの費用は一般に月3,000円ほど、年間でも4万円弱とされます。一人分で並べれば、その人が辞めて次を採り直す費用と、同じくらいの桁です。もちろん同社の法人契約額も、離職がどれだけ減ったかも公表されていません。「導入すれば必ず儲かる」とは言えません。それでも、我慢と離職を放置するコストは決してゼロではない、とは言えます。
そして、帳簿に出てこない負担があります。先ほど書いた「不調を隠して働く時間」です。これには名前がついていて、出勤しているのに本来の力を出せていない状態を、健康経営の分野ではプレゼンティーズムと呼びます。2013年の調査では、月経随伴症状による年間の労働生産性の損失が4,911億円と推計され、経済産業省も2019年の資料でこの数字を紹介しています。
厄介なのは、この損失が数字に出ないことです。誰も報告しない。それどころか、うまく隠しきれた人ほど、よく働く人に見える。痛みをこらえて過ごすピークの一時間で、提供スピードも、オーダーの精度も、笑顔の余裕も、少しずつ削られていく。我慢は、静かに仕事の質を削ります。
採用広報の面でも、目を引く施策ではあります。実際に報道され、SNSでも広がりました。ただし応募が増えたのか、採用単価が下がったのかを確かめられる資料はありません。ここは期待どおりになるとは限らない、と正直に書いておきます。
当事者はどう見ているか
このニュースが話題になったとき、私が話を聞いた30代の女性の言葉が忘れられません。業界の人ではありません。報道を見た一人の生活者としての感想です。
「社会に普及したらいいと思う。人によっては本当に重くて辛くて、対応しようとするとずっとかかり続けるお金だから。飲んで元気に働けるなら、それでいい」
経営側から見た合理性の話をしてきましたが、受け取る側にとっては、まず「終わりの見えない自己負担が消える」という話なのだと気づかされました。継続して服用する人にとって、毎月の自己負担は積み重なります。それを個人の財布で背負い続けるのか、働く条件の一部として会社が引き受けるのか。制度設計の差は、そこにあります。
ただ、同じ女性はこうも付け加えました。
「これが普及したことで、ピルを飲んで働け、みたいにならなければいいけれど」
拡大前の利用率は、9.4%
この懸念について、事実を一つ置いておきます。同社の発表によれば、対象拡大の前、制度を利用していたのは対象となる女性社員のうち9.4%でした。全額補助にしても、10人に1人です。
なお同社はこのリリースの中で、国連の調査による日本のピル服用率2.9%という数字も引用し、諸外国に比べて服用のハードルが高い現状に触れています。ピルという選択肢がまだ身近ではない国なのだ、という背景を示す数字として、よく分かります。
ひとつだけ補足すると、この2.9%は避妊法として使っている人の割合を各国で比べたものです。PMSや月経困難症の治療目的まで含む今回の9.4%とは、分母も目的も違います。どちらも意味のある数字ですが、並べて何倍と読むものではない。そのくらいに受け取っていただければと思います。
分かるのは、費用の壁を取り払っても、使うかどうかは一人ひとり違うということです。全員が使うことを前提にした制度ではない。ただし、利用率が低いことをもって職場に同調圧力がない、とまでは言えません。
同社は制度を告知する際、メリットだけでなくデメリットも併記して社内に掲示したそうです。相談を受けたときも、いきなりオンライン診療ではなく、まず婦人科の受診を勧めているといいます。私はこれを、使わせるためではなく、選択肢を増やす方向を意識した設計だと読みました。
それでも、制度が壊れるとしたらここから
とはいえ、先ほどの懸念が的外れかというと、そうは思いません。むしろ制度の急所を突いていると感じます。
善意で始まった制度も、当たり前になった瞬間に「前提」へ変わります。全額補助が行き渡った職場では、「対策できるはずなのに、なぜ休むのか」という、声にならない圧力が生まれかねない。医療上の選択が、いつのまにか職場の期待にすり替わる。思いやりが、体調管理の義務に転じる瞬間です。
だから、導入する側が同時に決めておくことがあります。
服用はあくまで本人の選択であること。使わない人が不利にならないこと。会社が負担するのは費用までで、診断も処方も服用の判断も、医師と本人の領分だと線を引くこと。誰が使ったかを上司や人事が知らずに済む仕組みにすること。健康や診療の情報は、法律上も特に慎重な扱いが求められる情報です。
そしてもう一つ。生理日の就業が著しく困難な人が請求できる生理休暇は、労働基準法68条に定められた法定の権利です。補助制度があるからといって、休める仕組みを置き換えたり細らせたりしてはいけません。厚生労働省も、上司に相談しづらい、同僚の目が気になるといった理由で取得が進まない実態を認めています。制度があることと、使えることは別なのです。
制度は、配ったもので評価されがちです。けれど本当に効くのは、配らなかったときに何が起きないよう守ったかのほうだと思います。支援は、断れて初めて支援になる。ここを外すと、優しさは静かに圧力へ変わります。
地域の小さな事業者が持ち帰れるもの
「うちには真似できない」で終わらせるのは、もったいない話です。この事例から持ち帰るべきは、ピル補助という制度そのものではありません。従業員が個人で引き受けている不調にも経営上のコストがあると認め、本人が断れる形の解決策を探す。その考え方のほうです。
シフトの急な穴。毎年出ていく求人費。惜しまれながら辞めていくベテラン。ひとつずつ値札をつけてみると、「福利厚生に回す余裕はない」という判断が、結果として高くついていることもあります。優しさと合理性は、必ずしも対立しません。
そして、その制度が本当に人を助けているかどうかは、使った人の数だけでは測れません。使わなかった人も気まずくならずにいられるか。そこまで含めて、はじめて評価できるのだと思います。
あなたの職場にも、まだ見えていない負担はないでしょうか。すぐに制度をつくる必要はありません。今月シフトの穴を何回埋めたかを数えてみる。面談で体調の話を一度だけ聞いてみる。まずはそこからで、十分に間に合います。
ご覧いただきありがとうございました。 阿見町の 筧田 がお送りしました!
参考資料
- 物語コーポレーション ニュースリリース(2026年6月26日)
- 物語コーポレーション ニュースリリース(2023年10月16日・制度導入時)
- 東京都産業労働局「働く女性のウェルネス向上委員会」企業取組事例(2025年)
- マイナビバイト通信 Vol.48(2023年・2022年実績)
- 経済産業省「健康経営における女性の健康の取り組みについて」(2019年)/原典:Tanaka et al.(2013年)
- 厚生労働省:生理休暇に関する整理











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