どうもこんにちは!
阿見町議会議員の 筧田 聡 です。
今日は議員としてではなく、統計を読む一人として書きます。
この記事でやること(先に3行)
- 老後にいくら必要かは、紙1枚と半日で出せます
- ただし、ほとんどの人が最初の一歩でつまずきます。年金は、額面と手取りが違うからです
- 手順は5つ。①数字を集める ②収支の不足を出す ③大きな出費を並べる ④前提をわざと壊す ⑤家族に見せる
つまずきポイント:年金からも税金と保険料は引かれます
最初に、ほとんどの人が間違える一点から始めます。
年金は、振り込まれる前に引かれます。
所得税、住民税、国民健康保険料、介護保険料。これらは給料と同じように、年金からも引かれます。
数字で見ましょう。家計調査(2025年平均)の「65歳以上の夫婦のみ・無職の世帯」です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 収入(額面) | 約25.4万円 |
| 引かれるもの(税・社会保険料) | −約3.3万円 |
| 実際に使えるお金(手取り) | 約22.2万円 |
差は月3万円あまり。年にすれば約40万円。30年なら1,200万円です。
ねんきん定期便に書かれた金額を、そのまま生活費に使えると思って計算していた人は、最初の一歩で1割以上ずれています。 そしてそのズレは、老後の30年間ずっと続きます。
だから計算は、ここから始めます。
出す式は、これ1つだけです
これから用意する額
=(老後の収支不足の合計)
+ 臨時の大きな出費
+ 予備費
− いま持っている老後用の資産
− 退職金・企業年金など
この5つを、手順1〜4で順番に埋めていきます。各手順の最後に「式のどこに入るか」を書いておきます。
難しい知識は要りません。必要なのは、紙1枚と、書類を探す気力だけです。
ひとつだけ先に決めておきます。計算の終わりは95歳で置いてください。 平均寿命ではありません。いま60歳の人のうち、4人に1人は95歳まで生きるという推計があります。長生きは喜ばしいことですが、お金の計算では「長生きしてしまった場合」のほうを見ておく必要があります。
手順1:家の中から、4つの数字を集める(約2時間)
① 年金がいくらか——ただし「手取り」で
ねんきん定期便を探します。毎年、誕生月にはがきで届いているはずです。
- 50歳以上の人:今の働き方を続けた場合の「見込額」が載っています。そのまま使えます
- 50歳未満の人:書いてあるのは「これまで納めた分に応じた額」です。将来もらえる額ではありません。日本年金機構のねんきんネットで試算してください
そして、見込額の85%を、仮の手取りとして書き留めてください。 先ほどの夫婦世帯では約13%が引かれていました。少し厳しめに15%引いておきます。
——ここで正確さを求めないでください。税も保険料も、住む自治体と所得で変わります。正確に出そうとすると、半日では終わりません。
まず85%で通しで計算する。数字が一度出てから、精度を上げる。 事業計画と同じです。最初から完璧な数字を待っていると、計画そのものができません。
(一度通して数字が出たら、市区町村の保険料額表や、親御さんの年金の振込通知書で、自分の率に置き直してください。年金が少ない人ほど引かれる割合は小さく、多い人ほど大きくなります)
夫婦の場合は、必ず二人分を別々に出してください。会社員として厚生年金に長く入っていた人と、そうでない人とでは、金額が大きく違います。これは手順4の②で効いてきます。
→ 手順2で使います
② 退職金・企業年金・いまある貯蓄
退職金は、就業規則か退職金規程を見ます。見当たらなければ、人事に聞くのが早いです。
驚く数字があります。金融庁の報告書が引用している調査では、退職金の額を「受け取るまで知らなかった」人が約3割、「定年退職の半年以内に知った」人が約2割。つまり半分の人が、直前まで自分の退職金を知りません。老後資金の中で一番大きな一括収入を、多くの人が知らないまま計画を立てているのです。
「うちには制度がない」と分かるのも、立派な成果です。 空欄が埋まらないと分かった時点で、これから準備すべき場所が特定できたということですから。
企業年金・iDeCo・小規模企業共済は、残高だけでなく受取の時期と方法も書いてください。一時金で受け取るなら退職金と同じ扱い、年金形式なら手順1①の年金額に足します。ここを混ぜると、同じお金を二重に数えてしまいます。
いまある貯蓄のうち、老後に使うつもりの金額も書き出します。教育費や住宅資金に充てる分は除きます。
→ 式の「退職金・企業年金など」と「いま持っている老後用の資産」に入ります
③ 住宅ローンが、何歳で終わるか
返済予定表(償還予定表)を開いて、最後の支払いが何年何月かを見ます。そこに、そのときの自分の年齢を書き込んでください。
もし「70歳」「75歳」と出たなら、よく見かける「60代には支払いが終わっている」という前提は、あなたの家では成立しません。
実際、家計調査(2025年)では、世帯主が60代の世帯のうち約27%はまだ負債を抱えています(大半が住宅ローン)。4世帯に1世帯です。「60代は身軽」は、少なくとも全員には当てはまりません。
- リタイアまでに完済する場合:手順2で、老後の支出から住宅ローンを引きます
- 完済がリタイア後になる場合:リタイア後に残る返済総額を計算し、手順3の「大きな出費」に入れます
賃貸の方は、話はもっと単純です。家賃に「完済」はありません。 生きている限り毎月出ていく金額として、手順2の支出に残します。
→ 手順2または手順3で使います
④ 家と車が、あと何年もつか
築年数を数えます。給湯器、屋根、外壁、水回り。それぞれ次の交換・修繕がおよそ何年後で、いくらかかるか。相場をざっと調べる程度で構いません。
車も同じです。次の買い替えを何年後に置くか。
→ 手順3で使います
ここまでで、紙の上に数字が並びました。この時点であなたは、ネット上のどの記事よりも、あなたの家について詳しくなっています。
手順2:老後の収支不足を出す(約40分)
ここがいちばん大事な手順です。「働く期間」と「働かない期間」を分けて計算します。
まず、老後の毎月の支出を出す
今の家計の支出から、こう増減させます。
引いていいもの
- 教育費
- 通勤にかかるお金
- 住宅ローン(リタイアまでに完済する場合のみ)
- 現役時代だけの交際費・スーツ代など
引いてはいけないもの
- 食費、光熱費、通信費
- 生命保険・火災保険などの保険料、車の維持費
- 家賃(賃貸の場合)
むしろ増えるもの
- 医療費(通院・薬代)
- 光熱費(家にいる時間が長くなります)
これで「老後の毎月の支出」が出ます。
次に、2つの期間に分けて引き算する
期間A:65歳から、働くのをやめる年齢まで
毎月の不足A = 老後の毎月の支出 −(手取りの年金 + 働いて得る毎月の手取り)
65歳以降も働くなら、その収入をここに入れます。黒字になるなら、不足Aはマイナス(=貯まる)です。
期間B:働くのをやめてから95歳まで
毎月の不足B = 老後の毎月の支出 − 手取りの年金
合計する
老後の収支不足の合計 =(不足A × 期間Aの月数)+(不足B × 期間Bの月数)
たとえば70歳まで働くなら、期間Aは60か月、期間Bは300か月です。
出てきた数字が、あなたの家の収支不足です。統計の4.2万円×360か月ではありません。2万円の家もあれば、9万円の家もあります。
→ 式の「老後の収支不足の合計」に入ります
手順3:大きな出費を、時間軸に並べる(約30分)
紙に、65歳から95歳までの目盛りを引きます。その上に、これから来る大きな出費を置いていきます。
- 家の大規模修繕(外壁・屋根):〇年後、〇〇万円
- 給湯器・水回り:〇年後、〇〇万円
- 車の買い替え:〇年ごと、〇〇万円
- リタイア後に残る住宅ローン(手順1③で該当した人)
- 介護:いつ来るかは分かりません。仮に「85歳から5年間」と置いてください。自宅の場合と施設の場合の2通りで金額を置きます。介護保険を使っても、施設の部屋代・食費・日用品代は自己負担で残ります
- 子どもへの援助、親の介護、自分たちの葬儀
置いた瞬間、「いつか来るもの」が「12年後の200万円」に変わります。
漠然とした不安は動かせませんが、日付と金額がついたものは動かせます。 この手順が、いちばん効きます。
並べ終えたら、紙に置いた金額をすべて合計してください。
→ 式の「臨時の大きな出費」に入ります
手順4:前提を、わざと壊してみる(約1時間)
ここが本番です。「うまくいく場合」だけでなく、「うまくいかない場合」でも成り立つかを見ます。
やり方は同じです。 条件をひとつ変えるたびに、手順2と手順3の数字を直して、必要額を計算し直します。
① 働くのをやめる年齢を、65歳・70歳・75歳の3通りで引く
「働けるうちは働く」は、計画ではありません。
75歳まで働けるかどうかは、健康状態と仕事の種類によって、人それぞれです。だからこそ、一番早い65歳でやめた場合でも成り立つかを見ておきます。
手順2の期間Aと期間Bの区切りを動かして、3通り計算します。
② 配偶者が先に亡くなった場合を入れる
残された人の年金は、自分の年金に遺族厚生年金が組み合わさる形になります。遺族厚生年金の目安は、会社員だった配偶者の厚生年金部分のおよそ4分の3。ただし自分にも厚生年金がある人は、その分が差し引かれます。いずれにしても、二人分の合計より確実に減ります。
ところが、生活費は半分にはなりません。家賃も、電気やガスの基本料金も、そのまま残るからです。収入は大きく減るのに、支出はそこまで減らない。 この差が効きます。
手順1の①で年金を二人分に分けたのは、このためです。
③ 介護を、自宅と施設の両方で置く
手順3で「85歳から5年間」と置いた介護費を、自宅の場合と施設の場合で入れ替えて計算します。金額の幅がいちばん大きい項目です。
④ 毎月の生活費を1.3倍にして計算する
30年分の物価上昇を1年ずつ計算するのは大変です。簡易にいきます。
年2%の上昇が30年続けば、30年後の物価は約1.8倍(1.02の30乗)。ただし30年間ずっと1.8倍なのではなく、最初は1.0倍で、終わりが1.8倍です。全期間の平均で見れば1.3倍前後。
まずは手順2の「老後の毎月の支出」を1.3倍にして、成り立つかを見てください。
⑤ 年金が、今の見込みより1割少ない場合を見る
2024年の財政検証では、標準的な世帯の年金額が、現役世代の手取りに対して今の約61%から、将来は50%台に下がる見通しが示されました。
「若い人は年金を一円ももらえない」という極端な話は、制度の仕組みと合いません。ただし、現役世代の給料に対する割合は下がっていきます。
50歳未満の方は、手順1①で出した年金額を1割減らして、もう一度計算してみてください。
予備費を決める
ここまでで、いくつもの答えが出たはずです。
いちばん大きくなったケースと、もとの計算との差額。それがあなたの家の予備費です。
(手順3ですでに入れた介護費などを、予備費にもう一度足さないでください。二重になります)
→ 式の「予備費」に入ります
最後に、式に当てはめる
5つの数字がそろいました。冒頭の式に入れます。
これから用意する額
=(老後の収支不足の合計)+ 臨時の大きな出費 + 予備費
− いま持っている老後用の資産 − 退職金・企業年金など
ここで初めて、「うちは500万円で足りる」「1,500万円だ」「3,000万円必要だ」という結論が出ます。
どの答えが出ても、それが正解です。 ただし、いま置いた前提での試算であることは忘れないでください。前提が変われば、必要額も変わります。
手順5:家族に、一度だけ見せる(約30分)
出した紙を、配偶者に見せます。子どもがいるなら、いずれ見せます。
この手順がいちばん効くのは、実は金額ではありません。前提が共有されることです。
どこで働くのをやめるつもりか。家をどうするか。介護はどこでやるか。
数字を挟むと、この話は不思議と穏やかにできます。数字がないまま話すと、たいてい感情の話になります。
紙は捨てずに取っておいて、5年ごとに開きます。前提が変われば、数字も変わる。それでいいのです。
一度出した数字を守ることが目的ではありません。いつでも出し直せる状態でいることが目的です。
年金の「上乗せ」がない働き方をしてきた人へ
会社員や公務員として働いた期間には、国民年金の上に厚生年金が上乗せされます。自営業や農業、フリーランス、社会保険に入らないパートで働いた期間は、この上乗せがなく、国民年金が中心です。
数字で並べてみます。家計調査(2025年)の夫婦世帯(65歳以上・無職)が受け取る年金などは、月約22.9万円。これに対して国民年金は、夫婦2人とも満額でも月約13.9万円です(2025年度)。統計の平均をそのまま自分の家に当てはめると、毎月9万円ほど多く見積もってしまうことがあります。
退職金や企業年金も、自分で用意しない限りありません。小規模企業共済やiDeCoに入っていれば、その残高が手順1の②に入ります。
手順1の②が空欄になっても、失敗ではありません。これから準備する場所が、はっきりしたということです。
最後に
必要なのは、他人の結論ではありません。自分の前提を書き出す作業のほうです。
地味で、面倒で、半日で終わります。
その半日を惜しむ人ほど、「2000万円必要だ」「いや0円でいい」といった極端な話を必要とします。
——ところで、手順1で集める数字のうち、今すぐ答えられないものはいくつありますか。
年金の手取り。退職金の有無。ローンが終わる年齢。家の築年数と車の年数。
その「答えられない数」が、あなたの家の「2000万円問題」の正体です。
数字そのものは、いつでも出し直せます。まずは今日、ねんきん定期便を探すところから。 去年の誕生月のはがきが、引き出しのどこかにあるはずです。
やってみて手が止まったところがあれば、教えてください。次の版で手順を直します。
ご覧いただきありがとうございました。
阿見町の筧田がお送りしました。
参考資料
- 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」(高齢夫婦無職世帯の収入・税と社会保険料・手取り・支出)
- 総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果の概要」(60代世帯の負債保有割合)
- 金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」2019年6月3日(95歳までの生存割合・退職金を知った時期)
- 厚生労働省 年金局「第25回社会保障審議会年金部会 参考資料」2025年6月30日(令和6年財政検証の所得代替率の見通し)
- 日本年金機構「令和7年4月分からの年金額等について」(国民年金の満額=月69,308円)












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