どうもこんにちは!
阿見町議会議員の 筧田 聡 です。
2026年春のナフサ不足は、ホルムズ海峡の封鎖で輸入が細り、国内で手に入る量が通常より約2割減ったところへ、買い急ぎが重なって起きた騒ぎでした(5月25日の首相会見)。半年たったいま、量の不足はおおむね収まり、上がった値段のほうが残っています。
我が家の建築請負契約は、その真ん中の4月20日でした。
結果として、価格も工期も動かず、10月に予定どおり引き渡しを受けました。ただ、それは私が何か上手くやったからではありません。契約した会社が丁寧だった、に尽きます。
そのうえで、あの春に何が起きていたのかを、半年分の資料で追い直しました。ここから先は、町議としてではなく一人の施主としての整理です。
1|4月に何が起きていたか
事態が目に見えたのは4月13日でした。大手の住宅設備メーカーが、システムバス・ユニットバスの新規受注を一時見合わせると告知し、別の大手も15日から新規受注を止めます。同じ4月13日、国土交通省は、断熱材などの建材を別の材料に替えた場合の完了検査の扱いを、自治体や検査機関に示しました。
受注は、20日から22日にかけて、各社で段階的に戻り始めます。私の契約日は、その再開の初日と同じ日です。
値上げも、春から相次ぎました。断熱材(押出法ポリスチレン)は4月1日出荷分から40%、ルーフィング(屋根の防水下地材)は5月1日納品分から40〜50%程度と、メーカーの改定が続きます。
つまり4月20日は、受注停止が明けた初日で、値上げが出そろう前という、たまたまの窪みでした。
2|ナフサとは何か
ナフサは、原油を精製する途中で取り出される中間原料です。日本語では粗製ガソリンとも呼ばれます。
プラスチック・断熱材・接着剤・塗料・シーリング材・防水材は、ここから枝分かれしています。家の部材のうち、樹脂やゴム、塗膜でできているものは、だいたいこの系統です。だから「風呂が届かない」と「壁が仕上がらない」が同時に起きました。
家の外でも、ごみ袋、ラップ、シンナー、尿素水(ディーゼル車の排ガス浄化に使う液)まで、同じ根から伸びています。
3|何が、どれだけ足りなくなったのか
日本のナフサは約6割が輸入で、輸入の約7割が中東から来ます(2025年の量的シェア)。残り4割の国内精製も、原料の原油はほとんどが中東産です。海峡が止まると、輸入も国内精製も同時に細る構造でした。
数字にすると、4月の輸入は前年比45.1%減、国内生産は22.8%減。首相は5月25日の会見で、国内で入手できている量が「通常と比べて約2割減」と述べています。量は、本当に減っていました。
そこへ在庫の薄さが重なります。攻撃の直前、ナフサの民間在庫は20日分程度だったとされます。原油には法律で備蓄の義務がありますが、ナフサは1993年に義務の対象から外れた経緯があるとされています。
さらに買い急ぎが乗りました。5月下旬の民間の信用調査会社の調査では、51.7%の企業が「前倒し発注・安全在庫の引き上げ」で身構えていました。同じ会見で首相も「実績以上の発注などで、現場では物資不足」と認めています。減った2割に、多めに確保する動きが上乗せされた。この増幅の仕組みは、2024〜25年の米騒動とよく似ています。別の記事で改めて書きます。
4|値段が「契約日」で分かれた理由
国内取引の目安になる国産ナフサ基準価格は、財務省の貿易統計にある輸入平均価格に1キロリットルあたり2,000円を上乗せして、四半期ごとに決まります。
ここに時差があります。通関の統計は、契約・船積みから集計までに1〜2か月かかります。実際、2026年1〜3月期は6万5,700円でほぼ横ばいのまま確定しました。3月の急騰が数字に出たのは4〜6月期で、11万8,900円。前期より5万3,200円高く、それまでの最高だった2022年4〜6月期の8万6,100円も大きく超えました。
7〜9月期は、10月29日に財務省が出した9月分の統計から決まりどおりに計算すると、9万7,800円です。前期より2万1,100円下がりました。それでも危機前(1〜3月期の6万5,700円)の1.5倍ほどの水準にいます。しかも月ごとに見ると、8月の約8万8,000円から、9月は約9万5,000円へ、また上がっていました。山は越えても、下り坂はまっすぐではありません。
見積書と契約書は、この遅れてくる値段のどこかの断面を写し取っています。同じ家でも、契約が3月か5月かで金額が変わる。私の値段が動かなかったのは、見積もりに写った断面がまだ古いうちに、その額で契約が固まったから。そして、その額のまま最後まで進めてくれる、丁寧な会社だったからです。
5|半年たって、いま(2026年10月末)
量は、おおむね戻りました。10月8日に日本銀行が公表した地域経済報告(さくらレポート)には、化学の企業から「原料の調達不安は解消」(近畿)、駆け込み発注は「沈静化している」(北陸)という声が並んでいます。止まっていた断熱材や樹脂建材の受注も、8月から10月にかけて順に再開しました。
海峡は、戻っていません。10月6日の通過は7隻で、開戦前の1日約125隻には遠く及びません。9月28日から10月5日の1週間には、タンカーへの攻撃が少なくとも12件と、開戦後で最も多くなりました。代替ルートと調達先の切り替えで、量だけをどうにかつないでいる状態です。
値段は、川下へ降りてきています。大手の住宅設備メーカーは、12月1日の受注分から、ユニットバスや水栓金具で8%など、品目ごとに8〜13%の値上げを発表しました。8月の消費者物価では、ポリ袋が前年比23.7%上がっています。
量の騒ぎは収まり、値段だけが残った。半年後の景色を一言にすると、そうなります。
6|これからの流れ|三つの見方
予測機関の見通しを、前提ごとに三つに分けて並べます(分け方は私の整理です)。
| 見方 | 前提 | 予測機関の見通し | 暮らしへの出方 |
|---|---|---|---|
| A 早く戻る | 米国とイランが合意し、通航が戻る | 国際エネルギー機関(IEA、10月14日)は、世界の石油供給が2026年に日量580万バレル減ったあと、2027年には770万バレル増えて戻ると見る。ただし湾岸で攻撃が再び起きており、その回復はもろいとする。日本銀行(10月30日)は、ドバイ原油が1バレル105ドル程度から見通し期間の終盤には70ドル程度へ下がる前提を置いたうえで、代替調達の輸送費が乗るため、企業の調達価格は国際市況ほどには下がらないとする | 原料が下がっても、店頭に届くのは数か月遅れ |
| B 高止まりが続く | 緊張と緩和を繰り返し、量は代替調達で確保 | 国内の民間シンクタンク(10月2日)は「ホルムズ開放は期待薄」、WTI原油は2027年半ばまで1バレル90ドル程度。米エネルギー情報局(10月6日)は北海ブレントの10〜12月平均を105ドルと見る(2027年平均は84ドルへ下がる予測)。食品メーカーを対象にした民間の信用調査会社の調査(9月30日)では、値上げが2027年にかけて断続的に続く見通し | 小刻みな値上げが続く |
| C 再び悪化 | 攻撃が激しくなり、迂回路も細る | IEA(10月14日)は、エネルギー設備やタンカーへの攻撃の激化が、さらなる回復を頓挫させかねないとし、10月に親イラン武装組織の攻撃が増えたことを理由に、年内の供給見通しをほぼ据え置いた。国内の証券会社(8月13日)は、紅海ルートの頓挫と米国産の調達継続を二つのリスクに挙げる | 4月の再来 |
10月中旬には、攻撃の再燃で北海ブレントの現物が1バレル134ドル前後まで跳ねる場面もありました。Cは遠い話ではありません。
それでも私の読みでは、10月末の時点で、予測の多くはBに寄っています。下がるとしても、その入口は2027年に入ってからという見方が中心です。
そして、三つの見方が割れても一致していることがあります。どの道でも、値段は元の場所には戻りにくい。企業がまだ価格に乗せきれていない分を回収する間は、原料が下がっても製品はすぐには下がらない、という民間のエコノミストの指摘です。日本銀行も10月の見通しで、原油高を起点にした企業どうしの価格転嫁が、消費者の段階へ波及する可能性を挙げています。
国も、備えの形を見直し始めました。経済産業省は8月、国の原油備蓄を、ナフサの国内精製分も含めた「原油輸入量の90日分」の水準まで2027年度中に戻すことを目指す案を示し、備蓄義務の外にあったナフサを踏まえて、石油備蓄の在り方を検討すべきだという論点も挙げています。
7|自分で答え合わせするための五つの数字
予測は外れます。だから、外れたかどうかを自分で確かめられる数字を置いておきます。
- 国産ナフサ基準価格(四半期ごと。7〜9月期は9万7,800円。次の10〜12月期は1月下旬に分かります)
- ホルムズ海峡の通過隻数(開戦前は1日約125隻)
- 為替(円安が進むほど、原料が下がっても値段は下がりにくい)
- 日本銀行の企業物価指数(ナフサ→合成樹脂→プラスチック製品の順に見ると、値上げが川下へ降りてくる速さが分かる)
- 民間の信用調査会社がまとめる値上げ品目数(毎月末)
半年後、この記事に、三つの見方のどれに近かったかを追記するつもりです。
8|これから家を建てる方へ
正直に書くと、ここから挙げる三つを、私は施工会社に一言も伝えていません。試しにすら、です。正しいことなのかもしれませんが、家づくりの最中に施主から条項や代わりの品の話を持ち出されたら、まず煙たがられます。だからこれは、施工会社に求めることではなく、施主の側で黙って持っておく備えとして書きます。
一つめは、請負契約書のスライド条項(資材の値上がり分を誰が負担するかを決める条項)を、自分で一度読んでおくこと。交渉の材料にするためではなく、何かあったときに慌てないためです。我が家は、見積額がそのまま契約額になる方式でした。
二つめは、欠品で代わりの品を提案されたときに、すぐ返事ができるようにしておくこと。「どのグレードにするか」の前に「そもそも入るのか」が問われる局面では、施主の返事の速さが、そのまま工期に効きます。
三つめは、工期のゆとりを、施主の側で持っておくこと。つなぎ融資の期間や、いまの住まいを出る時期を、数か月ずれても困らないように組んでおく。私の場合はここが偶然余っていて、それが気持ちの面でいちばん効きました。
そして結局、いちばん効いたのは、丁寧な会社と契約できたことでした。
契約の前に決まってしまうことは、補助金にもあります(阿見町の新築補助金|もらえるかは契約前にほぼ決まる)。
おまけ|ナフサという言葉
「ナフサ」はペルシア語系の「燃えるもの」に由来するとされる、かなり古い言葉です。キャンプ用のホワイトガソリンやライターのオイルも、このナフサの仲間。石油化学の最上流の名前が、アウトドア用品店の棚に並んでいるのは、ちょっと面白い話だと思っています。
この冬、どこかの新しい家で初めてお湯が張られるとき、その浴槽の向こうには、中東の海峡があります。
あなたの家や職場で、この半年に「これが入らなかった」「これが上がった」というものがあれば、教えてください。次の答え合わせの材料にさせていただきます。
ご意見・激励等ございましたら、気兼ねなくおっしゃってください!
ご覧いただきありがとうございました。
阿見町の筧田がお送りしました。
参考資料
量と経緯
- 首相官邸「内閣総理大臣記者会見」2026年5月25日(入手量は通常比約2割減・「実績以上の発注などで現場では物資不足」)
- 第一ライフ資産運用経済研究所 阿原健一郎 レポート 2026年6月2日(4月の輸入▲45.1%・国内生産▲22.8%)
- 第一ライフ資産運用経済研究所 熊野英生「ナフサ騒動の図式」2026年6月1日(輸入比率・在庫20日分・備蓄法の経緯)
- 帝国データバンク ナフサの影響に関する企業調査 2026年6月23日(調査5月21〜31日・4,604社/前倒し発注・安全在庫の引き上げ51.7%)
- TOTO「製品供給への影響」2026年4月13日(システムバス・ユニットバスの新規発注分の受注見合わせ)
- クリナップ 新着情報 2026年4月21日(受注の再開)
- カネカ「押出法ポリスチレンフォーム(カネライトフォーム)の価格改定」2026年3月19日(4月1日出荷分から40%)
- 田島ルーフィング「価格改定のお知らせ」2026年4月1日(5月1日納品分から40〜50%程度)
- 国土交通省「完了検査の柔軟な運用について」令和8年4月13日(国住指第38号)
価格
- 財務省貿易統計「品別国別表」(輸入・統計品目番号2710.12-181=石油化学製品の製造に使う揮発油)(2026年7月・8月・9月分の数量と金額。9月分は10月29日公表の速報。基準価格=3か月の金額合計÷数量合計+1キロリットル2,000円)
- 化学工業日報「4〜6月の国産ナフサ11・8万円 上げ幅含め最高」(4〜6月期の国産ナフサ基準価格)
- 化学工業日報「国産ナフサ高止まり 7〜9月は10万円近傍の様相」2026年7月28日
- 三協化学「国産ナフサ価格更新」2026年10月6日(7〜9月期・10〜12月期の試算)
- TOTO ニュースリリース 2026年7月31日(12月1日受注分から希望小売価格を改定・品目別8〜13%)
- 旭化成建材 お知らせ 2026年7月29日(断熱材の受注再開)
- AGCポリマー建材 お知らせ 2026年9月28日(10月1日から受注制限を解除)
いまと、これから
- 日本銀行「地域経済報告(さくらレポート)」2026年10月8日(化学の企業の声)
- Reuters配信(Baird Maritime掲載)「Tanker attacks send visible Strait of Hormuz transits tumbling to two-month low」2026年10月8日(通過7隻・開戦前は1日約125隻)
- ロイター「ホルムズ海峡のタンカー攻撃、週間12件とイラン開戦以降最多」2026年10月7日(9月28日〜10月5日に少なくとも12件)
- 国際エネルギー機関(IEA)「Oil Market Report」2026年10月14日(供給は2026年▲580万バレル→2027年+770万バレル・回復はもろい・ブレント現物134ドル前後)
- 日本銀行「経済・物価情勢の展望(基本的見解)」2026年10月30日(原油の前提=105ドル程度→70ドル程度・調達価格は国際市況ほどには低下しない・価格転嫁の波及)
- みずほ「2026年・2027年 世界経済見通し」2026年10月2日(見方B)
- 第一ライフ資産運用経済研究所 熊野英生「物価はイラン攻撃の終結合意でどうなるか?」2026年6月(値段が戻りにくい理由)
- 米エネルギー情報局「Short-Term Energy Outlook」2026年10月6日(見方B・2027年の予測)
- 帝国データバンク「価格改定動向調査」2026年9月30日(値上げの見通し)
- 野村證券 ウェルススタイル 2026年8月13日(見方C)
- 第一ライフ資産運用経済研究所 新家義貴「消費者物価指数(全国・2026年8月)」(ポリ袋+23.7%)
- 経済産業省 資源エネルギー庁 資源・燃料分科会 資料3 2026年8月24日(p.33 国家備蓄原油の当面の対応(案)/p.20 石油備蓄の在り方の論点)


















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