どうもこんにちは!
NPO法人地域知見LIVE 理事長の 筧田 聡 です。
「調べたら、通説が怪しかった」を書いていく連載『簡潔屋の素朴な疑問を論理で解消』。今回は梅干しです。
土用干しの季節が終わりました。近所でも、ザルに並んだ梅を裏返している方を見かけました。
毎年見ていて、気になっていたことがあります。あれは、なぜ「天日」でないといけないのでしょうか。 乾かすだけなら乾燥機でもいいはずです。「太陽に当てると柔らかくなる」「紫外線がいい」と言われますが、紫外線は何をしているのでしょう。
調べてみました。結論から言うと、紫外線はほとんど何もしていませんでした。 梅の色を変えていたのは、紫外線ではなく「目に見える光」。柔らかさは塩で決まり、天日はその差を均しているだけ。そして「夜露に当てると柔らかくなる」という言い伝えは、産地の県が「夜露にあてるな」と指導していました。
よく言われている説明
土用干しについては、こんな説明を目にします。
- 太陽の紫外線で梅からエチレンが出て、追熟して柔らかくなる
- 太陽の遠赤外線が芯まで届いて、内側から温める
- 干し椎茸と同じで、日に当てると旨味が増す
- 太陽の殺菌力で腐りにくくなる
- 夜露に当てると皮が柔らかくなる
どれも、なるほどと思える話です。私も最初はそう思っていました。
調べたら、順番に崩れた
紫外線。 和歌山県の試験場が、紫外線を99%カットするフィルムをかぶせて梅を干しました(和歌山県農林水産試験研究機関研究報告 第13号、2025年)。赤みの数値は、カットしても、しなくても同じでした。ところが光そのものを9割さえぎると、赤みは干す前とほぼ同じ値まで下がりました。色を変えていたのは紫外線ではなく、目に見える光だった。 論文は「可視光が関与すると考えられた」という慎重な書き方をしています。
紫外線でエチレンが出て柔らかくなる、という説はどうか。日本植物生理学会の公式Q&Aにこうあります。「ウメ干しを作るときに紫外線によってエチレンの発生が増えるかどうかはいまのところわかりません」。専門家が、わからない、と言っています。
遠赤外線。 食品への浸透は、実測でおよそ0.2〜2.5ミリでした(野菜を使った1997年の測定)。芯までは届きません。表面で熱に変わって、あとは普通に伝わっているだけです。
旨味。 梅漬けから梅干しになると、香りの成分はむしろ減っていました。フルーティーな成分が減って、梅干しらしい香りに変わる。「増える」のではなく「変わる」で、しかも減る方向です。
殺菌。 梅干しが腐らないのは塩と酸と乾燥のためで、紫外線は表面にしか当たりません。1961年の食品衛生の論文が、すでに「外部のみの殺菌線の照射で食品の貯蔵を行なうことはむしろ不可能に近い」と書いています。ついでに言うと、梅干しに出る酵母は塩18%で止まりますが、pH2.3の酸だけでは止まりません。酸っぱいから腐らないのではなく、塩辛いから腐らない のでした。
夜露。 ここが一番驚いた点です。福井県の果樹の技術指導に、こう書いてあります。「天日干し中は、塩が吹いてきても、水をかけたり、夜露にあてたりしないようにする」。当てろ、ではなく、当てるな。 一方で神奈川県の技術センターは「日干し、夜干し」と案内していますし、産地の農家さんは2日目以降に夜露に当てる工程を紹介しています。三者三様です。そして、夜露に当てた梅と当てない梅を並べて比べた試験は、探した範囲では一つも見つかりませんでした。誰も比べていない のです。
では、天日は何をしているのか
ここまで読むと「天日干しは意味がない」ように見えますが、そうではありませんでした。天日干しは一つの作業ではなく、四つの別々のことを同時にやっていた、というのが調べ終わってからの整理です。
色 は、目に見える光で決まる。香り は、紫外線で変わる。柔らかさ は塩とペクチンで決まっていて、天日は「塩の種類でついた硬さの差を、均している」——これは日本海水学会誌の論文(2020年)にそのまま書いてあります。保存性 は塩と酸と乾燥で、光は関係ない。
そしてもう一つ。光を9割さえぎって干した梅のほうが、ポリフェノールが多かった(78.7 vs 52.7〜60.3 mg/100g)。光を当てるほど良くなる項目と、当てないほうが良い項目が、同じザルの上で同居していました。
| 何が | 決めているもの | 光は要る? |
|---|---|---|
| 色 | 目に見える光 | 要る(暗い所ならUVランプでも出る) |
| 香り | 紫外線 | 要る(増えるのではなく変わる) |
| 柔らかさ | 塩とペクチン | 天日は差を均す |
| 日持ち | 塩・酸・乾燥 | 要らない |
| ポリフェノール | 遮ったほうが多い | 当てないほうがいい |
福井県は実際に、暗い乾燥機の中でUVランプを当てて、天日干しと同じ色の梅干しを作っています。産地では強すぎる日差しで梅が「焼ける」のを防ぐために、ハウスの中で遮光して干しています。「天日干しがいい」も「機械で十分」も、どちらも雑な言い方だった、というのが今の私の理解です。
一段深いところ
夜露を比べた人が誰もいない、と書きました。実は、この記事を書く途中で、私自身が二度、結論を書き直しています。最初は「効いているのは温度だ」と思い、次に「紫外線だった」と思い、原典を読んで「目に見える光だった」に落ち着きました。通説を疑って調べると、疑った側の自分も間違える。 このシリーズはそういうものだと思って続けます。間違えたら、書き直します。
来年の土用、ザルの上の梅を見ながら「これ、紫外線じゃなくて光なんだよな」と一人で思っている自分が、少し楽しみです。
夜露、当てますか? 当てませんか? うちはこうだよ、という話があれば、聞かせてください。
おまけ|「白干し梅」なのに、赤くなるのが悩み
干しただけの梅干しを「白干し梅」と呼びます。白、と名前についているのに、産地の研究テーマは「赤くなりすぎるのをどう防ぐか」でした。日差しが強くなった近年、ハウスの中で日焼けする梅が問題になっているそうです。白い梅が赤くなって困る、という話を、私は今年初めて知りました。
このシリーズの次回は、「コーヒーは水分にならない」、落ちていた4つの条件です。こちらも、通説と原典がずれていました。
ご意見・激励等ございましたら、気兼ねなくおっしゃってください!
ご覧いただきありがとうございました。
阿見町の筧田がお送りしました。
参考資料
- 和歌山県農林水産試験研究機関「干し上げ時の光条件の違いが白干し梅の品質に及ぼす影響」研究報告第13号、2025年(紫外線カット区と無処理区の果皮色、遮光区のポリフェノール)
- 日本植物生理学会「植物Q&A 梅干と紫外線の関係」(紫外線とエチレンの関係は未確認、との回答)
- Hashimoto & Kameoka「Penetration of Infrared Radiation within a Vegetable Model」Food Science and Technology International Tokyo、1997年(赤外線の食品への浸透深さ)
- 「梅漬けおよび梅干しの精油成分について」農芸化学、55巻12号(天日乾燥で香気成分が減少)
- 「紫外線殺菌灯の食品衛生面への応用とその効果」食品衛生学雑誌、1961年(紫外線殺菌は表面のみ)
- 「Pichia anomalaの増殖抑制と低塩梅干しの製造」日本食品科学工学会誌、46巻6号(塩18%で酵母が止まる、pHだけでは止まらない)
- 福井県「令和5年7月の現況と8月の対策(果樹)」(「夜露にあてないようにする」の技術指導)
- 神奈川県農業技術センター「農産物の上手な利用法(梅干し)」(「日干し、夜干し」の案内)
- 紀州みなべの梅農家「梅干しの作り方」(2日目以降に夜露に当てる工程)
- 中山由佳・野田寧「塩の種類の違いがウメ干しの品質に与える影響」日本海水学会誌、74巻2号、2020年(塩による硬さの差が天日干しで小さくなる)
- 福井県「紫外線LEDを使った白干梅の機械乾燥条件」平成28年度指導活用技術(乾燥機とUVランプで天日干しと同等の色)
- 和歌山県うめ研究所「温暖化に対応した梅干の高品質化技術の開発」令和7年度研究成果集(ハウス干しの日焼け・遮光)
















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