どうもこんにちは! 阿見町議会議員の 筧田 聡 です。
他の地域の若手議員の中で話題になっていたので、阿見町議会において人事案件に「質疑をしてはいけない」という決まりがあるのかを、会議規則と公開資料で調べました。
結論から書くと、人事案件への質疑を禁じる条文は、見つかりませんでした。全国の町村議会が手本にする「標準町村議会会議規則」(全国町村議会議長会、2024年2月最終改正)にも、阿見町議会会議規則にも、「人事」という語そのものが出てきません。
きっかけは、他の自治体の議員の戸惑い
9月のはじめ、SNSで他の自治体の若手議員の投稿を見かけました。
議会に人事の議案が出たとき、どんな考えでこの人を選んだのかを、前向きな意味で聞いてみたかった。ところが質疑を出そうとしたら、議場の空気が変わった。人事案件って、質疑するものじゃなかったんだ——そんな戸惑いでした。
コメント欄には、全国の議員から返事が集まっていました。要旨を並べると、こうなります。
- うちは常任委員会で普通に質疑する。市長に直接聞ける数少ない機会だから
- うちは全員協議会で聞く
- うちは申し合わせで「人事案件は質疑を省略する」と決まっている。一点張りだった
- 県議会は議事そのものが省略される。市議のときは質疑していた
- 明文の決まりはないが、「するもんじゃない」という圧は感じる
同じ「議会」なのに、答えがてんでばらばらでした。
今回の記事は、その空気の正体を、会議規則と公開資料で確かめてみたというお話です。
そもそも人事案件とは
副町長・教育長・監査委員・固定資産評価審査委員会の委員などは、町長が選びますが、議会が同意しなければ決まりません。この同意を求める議案を「人事案件」と呼びます。
条例や予算と違って、議会は中身を修正できません。できるのは、同意するか、しないかの二択です。町長が仕事を進めるための「前提の手続き」という位置づけになります。
人事案件への同意も、議会の役割でいえば「決める」の一つです。議会の役割の全体は、議会の3つの役割にまとめました。
禁じる条文は、どこにあるのか
議会の進め方は、それぞれの議会が「会議規則」で決めています。多くの議会は、全国の議長会が作る「標準会議規則」を手本にしています。
まず手本のほうを確かめました。標準町村議会会議規則は、議案について「提出者の説明を聞き、議員の質疑があるときは質疑の後」に進むと定めています(第39条)。人事案件を特別に扱う条文はありません。
次に、阿見町議会会議規則(1987年制定)です。全文を通して、「人事」という語は一度も出てきませんでした。
一方で、自分の会議規則に書き込んでいる議会もあります。京都府向日市議会会議規則の第43条第2項は、「人事に関する議題については、討論を用いないで表決に付する」と定めています。
ただし、これは討論の話です。しかも向日市の規則にも、質疑を禁じる条文はありませんでした。
つまり、人事案件で質疑をしないのは「決まり」ではなく、各議会の先例や申し合わせです。決めているのは、それぞれの議会自身です。
理由は「配慮」だった
では、なぜ多くの議会が質疑を省略しているのか。
その答えは、神奈川県川崎市議会の議会改革検討委員会が2017年にまとめた報告書にありました。報告書は、議員向けの実務書『詳細議員提要』(ぎょうせい)を引いています。
要旨はこうです。人事案件は、質疑を掘り下げると候補者の個人生活に及びやすいので注意が要る。省略する議会が多いのは、選ばれる人への感情的な攻撃になりかねないから。そのうえで、こう書いています。
議員としては質疑の範囲を逸脱しない限り、別段制約されるものではない
禁止ではなく、配慮でした。候補者は議場にいないので、その場で反論ができません。その人を守るための作法が、いつのまにか「質疑するものではない」という空気に変わっていた。私はそう受け止めています。
政令指定都市でも、扱いは割れている
同じ報告書には、全国20の政令指定都市の状況が載っています(2017年2月時点)。
| 本会議での扱い | 市の数 |
|---|---|
| 質疑を行っている | 8市 |
| 討論を行っている | 9市 |
| 委員会で審査している | 1市(川崎市) |
質疑を「行っていない」とした市の中にも、「過去に行った例有」と注記された市が4市ありました。
大きな市でも答えは一つではなく、時期や案件によって揺れています。
慎重な立場にも、筋の通った理由がある
コメント欄には、慎重な立場からの指摘もありました。ある議員の整理は、こうです。
人事案件も、原則は公開の場で質疑されるべきだ。ただ、公開の場で議論して否決されると、その人は元の職に戻れないことがある。たとえば校長先生が教育長に選ばれる議案が否決されたら、もう校長には戻れない。それが続けば、首長は人事案件を出すこと自体をためらい、いい人材が提案されなくなる。かといって、首長の言うままに質疑なしで通すのは、議会の役目を果たしていない。
慎重な立場も、質疑そのものを否定しているわけではありませんでした。見ているのは、否決の重さです。
この方の折衷案は、秘密会で質疑するというものでした。地方自治法第115条は、出席議員の3分の2以上の賛成で秘密会を開けると定めています。秘密会なら、候補者を守りながら、議会として確かめるべきことを確かめられます。
ただし、秘密会の記録は公表しないのが原則です(標準町村議会会議規則第97条)。後から公開するには、別の手当てが要ります。人事案件の質疑を秘密会で行った実例は、今回の調べでは確認できませんでした。
阿見町では、2021年に先例を削除していた
阿見町議会会議規則には、先に書いたとおり、人事案件を特別に扱う条文がありません。では先例集はどうか。議会事務局がまとめている「阿見町議会先例集」(令和7年2月18日現在)を開きました。
先例16に、こうありました。
人事案件は、委員会付託、質疑及び討論を省略し、採決するのが例である。
ただし、その直後に一行が足されています。
16については削除する。(令和3年8月29日議会運営委員会)
阿見町議会は、2021年8月に、この先例を自分たちで削除していました。同じ日に、委員会付託を省略する案件の先例からも「人事案件」が外されています。残っているのは「人事案件を除いた全ての議案を委員会付託する」という先例だけです。つまり今の阿見町では、人事案件は委員会には送らないが、質疑と討論は省略しない、という形になっています。
会議録を見ると、そのとおりに動いていました。2024年4月の臨時会で副町長の選任が議題になったとき、議員から質疑があり、町長が選んだ理由を答えています。そのあと委員会付託を省略し、討論はなく、異議の有無を諮って同意されました。採決は無記名投票ではありません。
先例を削除した理由までは、先例集には書かれていません。ただ、阿見町議会基本条例(2015年制定)には、この話に関わる条文があります。
- 第2条第4号「議会内での申合せ事項は、必要に応じて見直しを行うこと。」
- 第8条第2項「議会は、本会議及び委員会において、議員、委員会及び町長の提出する議案並びに町民提案に関して審議し結論を出す場合には、議員相互間の議論を尽くして合意形成に努めるとともに、町民に対する説明責任を十分に果たさなければならない。」
申し合わせは見直してよいものだと条例に書き、実際に見直した。私が議員になる前の、前の期の議会の仕事です。調べる前は、阿見にも「するもんじゃない」の空気が残っているのだろうと思っていました。先例集を開いて、削除の一行を見つけたときは、少し嬉しくなりました。
自分の議会で確かめるには
議員でも住民でも、次の3か所を見れば、自分の議会の扱いが分かります。
- 会議規則=例規集で開き、「人事」で検索する。条文があれば、そこに書いてある
- 先例集・申し合わせ=会議規則になければ、ここにある。議会事務局で確かめられる。削除された先例が残っていれば、その日付がいつ変わったかを教えてくれる
- 会議録=人事案件が出た日の会議録を開くと、質疑があったか、どう採決したか(起立か投票か)が分かる
議員の方へ。事務局に尋ねるときは、「質疑は禁止ですか」より「省略の根拠は、どの先例ですか」と聞いてみてください。そう聞けば、話は根拠の確認になります。
同意した理由を、一行残す
人事案件の質疑は、町がなぜこの人を選んだのか、議会はなぜ同意したのかを、会議録に一行残すためのものだと、私は考えています。
何年か後、誰かが会議録を開いたとき、「この人は、こういう理由で選ばれた」と一行で分かる。候補者を守る配慮と、町民への説明は、両立できるはずです。
お住まいの町の議会では、人事案件をどう扱っていますか。次に人事案件が出た日の会議録を、一度開いてみてください。
おまけ|議会の同意が要る人事は、意外と多い
川崎市議会の手引きには、議会の同意が要る人事が16種類並んでいます。副市長や教育長だけでなく、人権擁護委員、固定資産評価員、市民オンブズマン、人権オンブズパーソン……。議会の「同意」は、思っているより広く、町の仕事に関わっています。
議員の方は、ぜひご自身の議会での扱いを教えてください。
ご意見・激励等ございましたら、気兼ねなくおっしゃってください!
ご覧いただきありがとうございました。
阿見町の筧田がお送りしました。
参考資料
- 全国町村議会議長会「標準町村議会会議規則」(令和6年2月8日最終改正。第39条・第44条・第97条)
- 阿見町議会会議規則
- 阿見町議会先例集(令和7年2月18日現在。先例16・16-1・21・21-1・40。議会事務局配布)
- 阿見町議会会議録 令和6年第3回臨時会(議案第40号 副町長の選任)
- 阿見町議会基本条例(第2条・第8条)
- 向日市議会会議規則(第43条第2項)
- 川崎市議会 議会改革検討委員会「第7回報告書」(平成29年4月20日。人事案件の扱い・政令指定都市20市の状況・同意が要る人事16種類)
- 留萌市議会会議規則(逐条解説)(人事案件の議決の性質)
- e-Gov法令検索「地方自治法」(第115条=秘密会)


















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