どうもこんにちは!
阿見町議会議員の 筧田 聡 です。
今日は議員としてではなく、統計を読む一人として書きます。
この記事の結論(先に3行)
- 「老後は2000万円必要」も「老後資金は0円でいい」も、どちらもあなたの家には使えません
- 理由は単純です。どちらも、平均値や特定の条件を、あなたの家にそのまま当てはめているからです
- 世帯主が65歳以上の世帯は、貯蓄2,500万円以上が約36%、300万円未満が約15%。ここまで開きがあるものに、共通の正解は出せません
以下、なぜそう言えるのかを順に説明します。
いま増えている話
「老後2000万円問題は間違いだった」という話を、あちこちで見かけるようになりました。
数字の出どころが雑だった。前提が現実離れしていた。——この指摘自体は、だいたい当たっています。
問題はその先です。「だから老後資金は0円でいい」「60歳から貯め始めても間に合う」という結論まで、一気に進んでしまう話が増えています。
ここで一度、立ち止まってみてください。
この話をしている人は、「平均で語るな」と批判した直後に、別の平均を使って「大丈夫だ」と証明しています。 批判のルールを、自分にだけ適用していないのです。
つまり、2000万円も0円も、同じ間違いを反対方向にやっているだけです。順に見ていきます。
まず、いま公表されている数字を置きます
2025年(令和7年)平均の家計調査(総務省)から、実際の数字を並べます。
65歳以上の夫婦のみ・無職の世帯
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 収入(額面) | 約25.4万円 |
| うち年金 | 約22.9万円 |
| 税・社会保険料 | −約3.3万円 |
| 手取り | 約22.2万円 |
| 支出 | 約26.4万円 |
| 毎月の不足(手取り − 支出) | 約4.2万円 |
65歳以上の単身・無職の世帯
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 手取り | 約11.8万円 |
| 支出 | 約14.8万円 |
| 毎月の不足 | 約3.0万円 |
不足額は、額面ではなく手取りから支出を引いた数字です。ここを取り違えると、以降の計算がすべてずれます。
さて。夫婦の月4.2万円を、そのまま30年分かけると約1,500万円になります。
「やっぱり1500万円は必要なのか」と読めます。ですが、「他人の平均値」を自分の家計にそのまま当てはめて掛け算することこそが、二つの極論に共通する間違いです。
この1,500万円は、いまの平均を30年間そのまま固定しただけの仮の数字であって、あなたの家の必要額ではありません。
そもそも「2000万円」は、何と書いてあったのか
批判する側もされる側も、元の文書を読んでいないことがよくあります。
2019年の金融庁の報告書には、たしかにこう書かれています。
夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円~2,000万円になる。
ここだけが有名になりました。しかし報告書は、その直後の文でこう続けています。
この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。当然不足しない場合もありうる
さらに別のページには、老人ホームなどの介護費用や住宅リフォーム費用といった「特別な支出」は、この計算に含まれていないと書いてあります。
そして報告書の結びには、こうあります。
唯一の正解は存在せず、各人の置かれた状況やライフプランによって、取るべき行動は変わってくる。
つまり「全員に2000万円が必要」とは、最初から誰も言っていません。それどころか、「唯一の正解はない」と、報告書自身が書いている。
世間が単純化し、報道が見出しにし、それを別の誰かが「嘘だ」と叩いている。皮肉なことに、叩かれた報告書のほうが、叩いている側よりずっと慎重に書いてあります。
この構造を先に知っておかないと、次の極論にも同じように乗せられます。
「0円でいい」という話が成り立たない、3つの理由
理由1:別々の人のデータを、一人の人生としてつないでいる
「70代になれば赤字は減る」という主張があります。データ自体は正しいです。
高齢無職世帯(二人以上)の毎月の赤字は、こうなっています。
- 65〜69歳:約5.1万円
- 70〜74歳:約3.7万円
- 75歳以上:約2.7万円
たしかに縮んでいます。ですが、これは同じ夫婦を30年間追いかけた記録ではありません。
いま同時に生きている、年齢の違う別々の人たちを、横に並べただけの数字です。集合写真であって、一人の成長記録ではない。
だから「今の67歳が、72歳になればこの金額になる」とは言えません。育った時代も、持っている資産も、健康状態も違うからです。そもそも「75歳以上」の集計に入っているのは、そこまで生きた人だけです。
理由2:この「平均世帯」は、あなたが思い浮かべている人ではない
「65歳以上の夫婦のみ・無職の世帯」という統計を見るとき、多くの人は定年直後の65歳夫婦を思い浮かべます。
実際は違います。この統計に入っている世帯主の平均年齢は77.6歳です。
さらに、同じ調査の高齢無職世帯(二人以上)の持ち家率は95%を超えています。つまりこれは、持ち家が圧倒的に多い世帯の平均家計であって、賃貸の家賃や、まだ返済が続く住宅ローンを反映した数字ではありません。
もしあなたが賃貸で老後を迎えるなら、この平均支出には家賃がほとんど入っていません。そのまま自分に当てはめると、いちばん大きな固定費が丸ごと抜け落ちます。
理由3:「働けている人」だけを見ている
「65歳以降も働けば、月10万円は黒字になる」という話があります。
これは、健康で、働き口があり、配偶者も含めて働ける世帯の数字です。働けなくなった場合には、そのまま当てはめられません。
ところが、この数字を当てはめられているのは「65歳で貯蓄ゼロの人」です。
貯蓄がない人ほど、病気や親の介護、勤め先の都合で「75歳まで働く」という前提が崩れたときに、耐えられません。しかもそのどれも、自分では決められない。
前提が崩れたときに一番困る人に、前提が崩れない人の平均を渡している。 ここがこの手の議論の、いちばん不誠実なところだと思います。
「支出は減る」は本当。でも、減らないものが残る
「歳をとれば食べる量も減るし、旅行にも行かなくなる」——これは事実です。
ただ、70代以降の家計を壊すのは、日々の食費ではありません。壊すのはこちらです。
- 保険がきかない治療費
- 施設に入るときの一時金
- 築30年を超えた家の外壁・屋根・水回りの修繕
- 車の買い替え(特に地方)
どれも数十万〜数百万円です。しかも予告なく、まとめて来ます。
毎月の食費を2万円減らせば、8年でようやく外壁の200万円に届きます。しかし外壁は、8年待ってくれません。 節約は「月いくら」で効き、大型出費は「いつ・いくら」で来る。単位が違うのです。
もうひとつ、見落とされがちなことがあります。電気代、食料品、社会保険料といった「生きるのに必要な固定費」は、個人の努力では下げきれません。
そして高齢になってからの極端な節約は、栄養不足や人付き合いの減少を招きやすく、結果として医療費や介護費に跳ね返ってくることがあります。ある一点を越えると、節約はかえって高くつく。
「足りなければ削ればいい」の一言では済まないのは、このためです。
いちばん重要な数字:みんなバラバラです
ここまでの話をひっくり返す数字を、最後に置きます。
2025年の家計調査(貯蓄・負債編)では、全年代を通じた二人以上の世帯の平均貯蓄額は約2,060万円です。
ところが、真ん中の世帯(中央値)は約1,260万円。平均を下回る世帯が66%を占めています。平均が、一部のお金持ちに引き上げられているのです。
さらに、世帯主が65歳以上の二人以上世帯を貯蓄額で分けると、こうなります。
- 2,500万円以上:約36%
- 300万円未満:約15%
3世帯に1世帯は2,500万円を超えて持っていて、7世帯に1世帯は300万円未満で暮らしている。同じ国、同じ制度、同じ物価の中で、これだけ開いています。
ここで見たのは貯蓄額の分布であって、必要額そのものの分布ではありません。それでも——同じ年代の、同じ「高齢世帯」という括りの中で、資産がこれだけ開いているなら、必要額が揃っているはずもない。
「老後にいくら必要か」の平均が役に立たないのは、統計が雑だからではありません。現実が、平均のまわりに集まっていないからです。
ここに一本の正解を引こうとすること自体が、そもそも無理な話なのです。2000万円も、0円も。
なぜ、私たちは極論を信じたくなるのか
ここまで書いて思うのは、これは数字の話ではなく、気持ちの話だということです。
極論は、考えなくて済むから気持ちがいい。
「2000万円必要だ」と言われれば、不安になります。でも不安には出口があります。とりあえず何かを買えばいい。
「0円でいい」と言われれば、安心します。何もしなくていいからです。
方向は逆ですが、売られているものは同じです。「自分で考えなくていい」という商品です。値札の色が違うだけで、中身は変わりません。
そしてこの商品は、よく売れます。自分で計算する半日から逃げられるからです。ねんきん定期便を探して、ローンの返済予定表を開いて、家の築年数を数える。地味で、面倒で、少し怖い。
その半日を惜しむ人ほど、極論の言葉を必要とします。
これは家計に限った話ではありません。他社が失敗した理由は驚くほど鋭く見抜けるのに、自分の見込みだけは平均のまま置いてある——そういう場面を、仕事でも何度も見てきました。人は、自分に都合のいい数字にだけ検算をしません。
では、あなたの家の数字はどこにあるのか
必要額は、この形でしか出ません。
これから用意する額
=(老後の収支不足の合計)
+ 臨時の大きな出費
+ 予備費
− いま持っている老後用の資産
− 退職金・企業年金など
右側の数字は、どれもネットには載っていません。あなたの家の引き出しの中にあります。
ねんきん定期便。会社の退職金の規定。ローンの返済予定表。家の築年数。
集めて、引き算して、時間軸に並べる。それだけで「うちは500万円で足りる」「1,500万円だ」「3,000万円必要だ」のどれかが出ます。
どれが出ても、それが正解です。 報告書の言うとおり、唯一の正解はないのですから。
その具体的なやり方は、次の記事にまとめます。半日で終わる手順です。
数字は、暗いから怖いのではありません。見ていないから怖いのです。
——ところで、あなたの家の前提のうち、いちばん壊れやすいのはどれでしょうか。
健康でしょうか。住まいでしょうか。それとも「働き続けられる」という一行でしょうか。
その答えは、半日あれば出ます。ねんきん定期便を探して、返済予定表を開いて、電卓を叩くだけです。
——さて、その半日は、今週末のどこに空いていますか。
ご意見・激励等ございましたら、気兼ねなくおっしゃってください!
ご覧いただきありがとうございました。
阿見町の筧田がお送りしました。
参考資料
- 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」(高齢無職世帯の収支・年齢階級別の赤字・持ち家率)
- 総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果の概要」(貯蓄の平均・中央値・65歳以上世帯の分布)
- 金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」2019年6月3日(2000万円の算出根拠・引用3か所)












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