どうもこんにちは! NPO法人地域知見LIVE 理事長の 筧田 聡 です。
小学校の低学年のころ、鮭の皮が好きでした。焼けて、ところどころ焦げた、あの皮です。食べていると、家族に脅されました。「焦げを食べると、がんになるよ」。
小学生の私は、その言葉を信じてきました。
中学生のころ、兄のネット回線を借りていた時期に、ネットでこんな話を見ました。焦げの発がん性を確かめるために、ラットに、人間に換算するとダンプカーに載るほどの焦げを食べさせて、やっと証明できた。何台分と書いてあったはずですが、何台だったかは覚えていません。
情報を得る大切さに目覚めたのは、このときです。
今回の記事は、この「ダンプカー」の話そのものを、ふと思い出したついでに、一次情報から確かめてみようと試みたというお話です。
結論
普通に食べる焦げは、気にしなくてよかった。
焦げの中の物質に、がんを起こしうる性質があるのは本当です。気にしなくてよかったのは、物ではなく、量のほうでした。
そして、あの話には二つ、ずれがありました。実験でラットが食べたのは、焦げそのものではありません。しかも「ダンプカー換算」の話は、出どころが見つかりませんでした。
よく言われている説明
- 焦げには、がんのもとになる物質が含まれている
- だから、焦げた部分は避けたほうがいい
- ただし、がんになるほど食べるには、ダンプカーに載るほどの焦げが要る
はじめの二つは、1978年に発表された「がんを防ぐための12か条」にも書かれていました。三つ目は、中学生の私を救ってくれた話です。
通説の検証|ラットが食べたのは、焦げではなかった
焦げの中に、物質を見つけた。 1977年、国立がんセンター研究所の杉村隆さんらのグループが、焼いた魚や肉の焦げた表面に、遺伝子を傷つける性質(変異原性)をもつ物質が含まれていると報告しました。のちにヘテロサイクリックアミン(HCA)と呼ばれる仲間です。
ラットには、その物質を作って与えた。 動物実験では、見つかった物質を化学的に合成し、エサに混ぜて与えました。焦げそのものを食べさせたのではありません。米国立がん研究所によると、HCAを混ぜたエサを与えたネズミの仲間には、乳腺・大腸・肝臓・皮膚・肺・前立腺などに腫瘍ができました。その量は、普通の食事で人がとる量の「数千倍」でした。
ダンプカーは、見つからなかった。 人間に換算した例えは、書き手ごとにばらばらです。毎日茶碗数杯を年単位で。体重60kgの人が毎日100トン以上の焼き魚を1年以上。焼き魚数万匹分の焦げを数年。どれも、研究者本人や公的機関の資料には、たどり着けませんでした。おそらく、例え話が人から人へ渡るうちに、形を変えていったのだと思います。
情報の大切さを教えてくれた話、それ自体は一次情報ではありませんでした。
それでも、言いたかったことの向きは合っています。実験の量と食卓の量は、桁が違う。ここまでは「数千倍」が裏づけています。ダンプカーかどうかは、分かりません。
消えた一行|12か条から「焦げ」がなくなった
1978年の「がんを防ぐための12か条」の第8条は、「焦げた部分はさける」でした。2011年、がん研究振興財団が大きく改訂し、「がんを防ぐための新12か条」を出しました。その見出しに、焦げはありません。
並んだのは、たばこは吸わない、他人のたばこの煙を避ける、お酒はほどほどに、塩辛い食品は控えめに、適度に運動、適切な体重維持、ウイルスや細菌の感染予防と治療、定期的ながん検診を、などです。
外れた理由までは、確かめられませんでした。分かるのは、焦げが、がんを防ぐために先に手をつける12個には入らなかった、ということです。
実際に効いているもの|物・量・焼き方
- 物:HCAそのものに、がんを起こしうる性質はあります。国際がん研究機関(IARC)は、HCAの仲間のうちIQという1種を「おそらく発がん性がある(2A)」、PhIPなど9種を「発がん性の可能性がある(2B)」に分けています。2Aや2Bは、危なさの大きさではなく、証拠の強さの段階です(詳しくはおまけで)。食品安全委員会の季刊誌(2007年)の寄稿も、「微量とはいえ、ヒト発がん要因である可能性が高い」と判断されている、と書いています。ここまでは物の性質の話で、どれだけ食べると危ないかは、次の量の話です
- 量:その寄稿は、日本人が1日にとるHCAを0.4〜16マイクログラムと見積もっています。1マイクログラムは、100万分の1グラムです。米国の資料では、焼いた肉に含まれるHCAは多くが1グラムあたり100ナノグラム未満。肉1キロで0.1ミリグラム未満です。実験は、普通の食事の数千倍でした
- 焼き方:高温で、直火や熱い面に触れて焼くほど、HCAなどは多くできます(IARC)。人の調査では、よく焼いた肉や揚げた肉、バーベキューの肉をたくさん食べる人に大腸がんなどが多いという報告もあれば、関連はないという報告もあり、因果関係は確かめられていません(米国立がん研究所)
比較表|実験と食卓
| 動物実験 | いつもの食卓 | |
|---|---|---|
| 食べたもの | 合成したHCAを混ぜたエサ | 焦げ目のついた魚や肉 |
| 量 | 普通の食事の数千倍 | 1日0.4〜16マイクログラム(日本人の見積もり) |
| 物質の性質 | がんを起こしうる(2A〜2B) | 同じ物質が、ごく少し |
どっち向きか。焼き魚の焦げ目は、気にしなくていい側です。 物は同じでも、量の桁が違う。人の調査でも、はっきりした因果は見つかっていない。新しい12か条にも入っていない。この三つを合わせて、私はそう判断しました。真っ黒に炭になった部分を毎回食べるなら、そこだけ外す。それで足りると考えています。
一段深いところ|なぜ「焦げ」は覚えていて、「塩」は忘れるのか
12か条から焦げが外れて、並んだのは、たばこ、お酒、塩でした。
焦げは、目に見えます。皿の上で黒い。だから、子どもにも言える。塩は、目に見えません。味噌汁にも漬物にも溶けています。
私たちが気にしているのは、効くものでしょうか。それとも、目に見えるものでしょうか。
小学生の私に、教えてあげたい。鮭の皮、気にしなくてよかったんだよ。
おまけ|加工肉は、たばこと同じグループ。でも同じ危なさではない
2015年、IARCは、ハムやソーセージなどの加工肉を「発がん性がある(グループ1)」、牛や豚などの赤肉を「おそらく発がん性がある(2A)」に分けました。グループ1には、たばこもアスベストも入っています。
ではハムは、たばこと同じくらい危ないのか。IARC自身が、質問と答えの資料でこう書いています。分類は、がんの原因になるという「科学的な証拠の強さ」を表すもので、危険の大きさを測ったものではない。同じグループでも、同じように危ないという意味ではない。
焦げのHCAが2Aや2Bと聞いたときも、同じ読み方になります。
「うちは焦げを剥がす派だった」「いや、皮こそ本体だ」。焼き魚の焦げの思い出、ぜひ聞かせてください。
ご意見・激励等ございましたら、気兼ねなくおっしゃってください!
ご覧いただきありがとうございました。
阿見町の筧田がお送りしました。
参考資料
- Nagao M, et al.「Mutagenicities of smoke condensates and the charred surface of fish and meat」Cancer Letters 2(4-5), 1977, pp.221–226(焼いた魚・肉の焦げた表面に変異原性物質。所属=国立がんセンター研究所)
- Sugimura T, et al.「Heterocyclic amines: Mutagens/carcinogens produced during cooking of meat and fish」Cancer Science 95(4), 2004(合成したHCAをエサに混ぜて与えた動物実験)
- 米国立がん研究所「Chemicals in Meat Cooked at High Temperatures and Cancer Risk」2017年7月見直し(腫瘍ができた部位・通常の食事の数千倍の量・人の研究は結果が分かれ因果は未確立)
- 米国 National Toxicology Program 発がん物質報告 第15版 2021年(調理肉の総HCAは多くが100ng/g未満)
- 食品安全委員会 季刊誌「食品安全」13号 2007年7月(日本人のHCA摂取0.4〜16μg/日・「ヒト発がん要因である可能性が高い」)
- 食品安全委員会 季刊誌「食品安全」9号 2006年7月(1978年の「がんを防ぐための12か条」・第8条「焦げた部分はさける」)
- コトバンク「がんを防ぐための12か条」(旧12か条の第8条「焦げた部分は避ける」)
- 香川県「がん予防」(新12か条=がん研究振興財団・焦げの項目なし)
- IARC「List of Classifications」(IQ=2A、MeIQ・MeIQx・PhIP・Trp-P-1ほか=2B)
- IARC プレスリリース第240号 2015年10月26日(加工肉=グループ1、赤肉=2A)
- IARC「Q&A on the carcinogenicity of the consumption of red meat and processed meat」2015(分類は証拠の強さ・同じ危なさではない・高温調理でHAA/PAHが増える)















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